いったい誰が言い始めたのか定かではないですが、犬の年齢を人間の年齢に換算するときに7を掛けるというものがあります。
たとえば3歳の犬は、人間の年齢でいうと3歳×7=21歳といった感じですね。
これはおそらく、統計的に犬の寿命が10年で人間の寿命が70年と考えたときの対比によるものだと言われており、理論的な裏付けはないのです。
また一般的に小型犬は大型犬よりも長生きするため品種によって人間の年齢換算される年齢が異なることになります。
そんな犬の年齢換算論争に一筋の光となるべく2019年の最新研究において、犬のDNAの経時的な変化に基づく新たな手法が提案されています。
目次
そもそも犬の年齢を人間の年齢に換算する意味とは?
犬の年齢を人間の年齢で換算することの必要性や意味は実はあまりありません。
あえて考えるならば、犬も人間と同じく、幼少期、若年期、青年期、成人期、壮年期、高齢着といった具合にライフステージがあり、それぞれのステージにおける起きやすい病気や老化現象について人間に理解しやすくするためです。
ある獣医によると、『主に健康の観点から、犬が人間と比較してどれくらい早く老化するかについて一般の人々を教育する方法であり、それにより飼い主に少なくとも年に1回はペットを動物病院に連れてくるよう促すマーケティング戦略である』と語っています。
犬の年齢を人間の年齢に換算する手法
犬の年齢を人間の年齢に換算するときに、7を掛けるというシンプルなもののほかに、小型犬、中型犬、大型犬といった犬種に分けて定義するという手法が現在ではもっともポピュラーな方法です。
たとえば、一般的なガイドラインとして、アメリカ獣医医師会は次のように分類しています。
- 中型犬の生後1歳は、人間年齢でいうと15歳に相当します。
- 犬の2歳は、人間の約9歳に相当します。
- そしてその後、犬にとって毎年、人間の年齢でいうと約5歳年を取ります。
どうやって算出しているの?
考慮すべき多くの要因があるため、正確に特定することはできませんが、先ほどのアメリカ獣医医師会は次のように述べています。
「猫と小型犬は、一般に7歳で「高齢」と見なされますが、彼らにはその年齢でまだまだ多くの寿命が残されています。大型犬は小型犬と比較して寿命が短くなる傾向があり、5〜6歳のときに高齢者と見なされることがよくあります。「高齢」としての分類は、ペットは人よりも早く老化し、獣医師はこれらのペットでより多くの年齢に関連した問題を認識し始めるという事実に基づいています。一般的なドッグイヤーと呼ばれる信念に反して、犬は人間の年齢に比較して7倍の速さでは老化しません。」
たとえば、アメリカのグレートデーンクラブによると、平均寿命は約7〜10年です。
そのため、4歳のグレートデーンは、人間の年ですでに35歳になります。
繰り返しますが、これらは大まかな推定値であり科学的な裏付けがないことにご注意くださいね。
なぜ小型犬は大型犬より長生きするの?
この現象は長年にわたって科学者を悩ませてきましたが、体重と犬の寿命との関係についてはまだ研究で明らかになっていません。
一般的に言えば、ゾウやクジラのような大きな哺乳類は、マウスのような小さな哺乳類よりも長生きする傾向があります。
では、なぜ小型犬は大型犬よりも平均寿命が長いのでしょうか?
ドイツのゲッティンゲン大学の進化生物学者によると、大型犬は加速したペースで老化し、体重約2kgごとに犬の平均寿命が約1か月短縮されると結論付けています。
理由はまだ不明ですが、先ほどの研究者によるといくつかの可能性を示しています。
その中には大型犬が加齢に伴う病気にすぐに倒れる可能性があり、大型犬の成長が加速されると異常な細胞成長とがんによる死亡の可能性が高くなる可能性があると言っていますが、成長と死亡率の関係が解明されるためには更なる研究が必要のようです。
犬のサイズによる人間の年齢換算表
犬の老年学は学問研究における急成長分野であり、愛犬家がペットと過ごすことができる時間を延ばすだけでなく、その時間の質を向上させることを目指しています。
一つ忘れてならないのは、人間であろうと犬であろうと、私たちや犬が成熟し老化するにつれて、その過程のあらゆる段階でそれぞのれ美しさと魅力があります。
高齢の犬は灰色の口もとや賢明な表情で、特に愛らしい年齢とも言えますよね。
2019年の最新研究で提案される新しい手法とは?
カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者による2019年の研究は、時間と共に人間と犬のDNAに加えられる変更に基づいて、犬の年齢を推定する新しい手法です。
これは、生物が誕生してからの経過日数より求められる「暦年齢」とは異なり、組織・細胞の老化の程度から求められる「生物学的年齢」という考え方です。
様々な研究により、DNAのメチル化レベルと生物学的年齢(エピジェネティクス的年齢)には強い相関性があることが解明されました。
この生物学的年齢は近年、我々人間においても有力な老化の指標の一つとして考えられています。
ここでDNAについて解説しておくと、DNAはA(アデニン)T(チミン)C(シトシン)G(グアニン)の塩基が連なっていて、その配列によって遺伝子が決定され、アミノ酸を指定して、どんなタンパク質をつくるかが決まります。
DNAのメチル化とは、4つの塩基の中のC(シトシン)についている水素がメチル基(CH3)に変わることを言います。
まぁ、難しいことは置いておいて、つまりはDNAがどれくらいメチル化しているかで、組織や細胞の老化の程度を測るというものです。
研究チームは、犬のエピジェネティック的年齢と人間の年齢とを比較するために、生後4週間から16歳までの104匹のラブラドル・レトリーバーのDNAのメチル化率を調査。
またその後、そのメチル化率を、1歳から103歳までの320人のヒトの公開されたメチル化データと比較しました。
その結果、『犬の年齢の自然対数を16倍して31を加えた数値が、ヒトの年齢に換算した犬の年齢である』(human_age = 16ln(dog_age)+ 31)という式が導き出されました。
この式から計算される年齢を先ほどの表に加えると以下の通りになります。
犬のサイズによる人間の年齢換算表
この公式によると、2歳の犬は人間の42歳に相当します、その後、加齢の速さが遅くなり、5歳の犬は56.75歳の人間に相当し、10歳の犬は67.8歳の人に相当することになります。
おわりに
DNAのメチル化から生物学的年齢(エピジェネティクス的年齢)を求める手法により、犬の新たなヒト年齢換算の方法が示されています。
ただ今回の調査には主にゴールデンレトリバーの品種により導き出されたものであり、あなたの犬の「人間の年齢」は完全には一致しない可能性があります。
今後、様々な犬種による研究が進むことで犬種による違いが見えてくるかもしれませんね。
とにかく、長年に渡る「7倍速」というドッグイヤー神話が終焉を迎え、やっと科学に裏付けられた新しい式が提案され、新しい犬の「人間の年齢」換算の時代の幕開けとなるでしょう。